強風対策

1998年2月号 海の法規と知識 第41回
「強風対策」より抜粋

中山隆一郎 著

 

 船舶を保管(係留)する上で最も大切なことは台風や強風に対する対応だ。

 今年は台風の発生回数が非常に少なかったこともあり、ボートユーザーの皆さんは台風や強風の対策に緊張感が薄れているのではないだろうか。

 強風が吹くことにより何がボートにとって危険なのだろうか。

 ・流出
 ・ボートの損壊
 ・桟橋や岸壁の損壊


 流出

 係留してあったボートが流出する原因は、係留ロープの切断、ボート上における係留ロープを繋ぐためのビットやボラードの破損、桟橋や岸壁側のビットやボラードの破損などが考えられる。

 これらの事態を未然に防ぐための防御策を常日頃から考えておかなければ、突然の台風の到来や強風の発生時に対応が遅れ、結果、大変な被害を受けないとも限らない。いや、受けると考えたほうが賢明だ。なお、付け加えるならば通常のボート保険では天災による被害は保険の対象外となることも知っておこう。

 さて、それではどのように対策をとればよいのだろうか。

 まず、係留ロープは太くて丈夫なものを少数で繋ぐよりも多少細くても数多く繋ぐほうが有効である。また、ロープを繋ぐビットやボラードも一カ所に集中的にロープを繋ぐのではなく、極力複数の箇所に繋ぎ、ビットやボラードにかかる力を分散させるようにしなければならない。

 一方で陸上側の繋ぐ箇所もボート上と同様に極力かかる力を分散できるような配慮をしなければならない。そして、ビットやボラードのみに頼らず、ロープを繋ぐことができるものは活用し、ボートの流出防止に努める。


 ボートの損壊

 強風や波の影響で激しく揺れるボートは、それによりボートまたはボートの一部が損壊することが多々ある。

 ボートのビッチやボラードが破損することもあれば、隣接する他のボートとの接触によりボートが破損することもある。また、ボートと桟橋や岸壁との接触によりボートが破損することもある。

 自分のボート以外のボート、桟橋、岸壁との接触はフェンダーを使うことにより防御することも可能だ。しかし、通常時に使っている小さいものではこと足りない場合が多く、強風時対策用に大きなフェンダーを幾つか用意しておいたほうが良いだろう。また、日頃は疎かになりがちなフェンダー自体の手入れも非常時に備えて普段から怠らないようにすべきである。特にエアーフェンダーならば空気圧が適切な状態になっているかどうか、傷がついていないかどうかなども点検しておこう。そしてフェンダーカバーなどのフェンダー自体の損傷そのものを軽減させるグッズも非常に威力を発揮することも知っておこう。


 桟橋や岸壁の損壊

 ボートの接触により損害を被るのは自分のボートだけではない。相手のボート、そして桟橋や岸壁の損傷への気配りも大切なことだ。係留している状態にもよるが弱く脆い桟橋などでは強風の発生時にいとも簡単に損壊させてしまうこともある。また、隣接しているボートが自分のボートよりも遙かに小さく脆いものならば、ロープの切断や伸張により接触してしまった場合にはその小さなボートはひとたまりもなく損傷を受ける。

 強風発生時には自分のことだけを考えずに隣接するあらゆるものへの配慮を怠らないようにしなければならない。これは非常に大切なことだ。


 強風の予測

 概略の強風の予測はテレビやラジオの天気予報に限るが、その他にも電話(177)による天気予報も必ず聞いておいたほうが良いだろう。特に台風接近時には定期的に聞いて常に最新情報を把握すべきである。

 ボートの強風対策に重要な情報は風の強さ(風力)、風の向き(風向)、波の高さ(波高)の3点だ。

 まず風力は一般的に15m/秒を越えると危険となる。客船などの運航基準でも15m/秒を越えると運航の中止をするとこが比較的多い。

 次に風向だが、これは自分のボートの係留場所がどの方向から吹く風に弱いかを事前に知っておく必要がある。どんなに風が強くても風向によっては全く問題のない係留場所もあれば、さほど強くない風でも風向次第では非常に危険な係留場所もあり、これは立地条件次第なのでよく把握しておかなければならない。

 そして最後に波の高さだが、これも立地条件によって大きく異なり、うねりは波浪が押し寄せるような係留地では極めて重要なことだ。逆にうねりや風浪に影響の係留地ならば波高の情報はあまり関係ないかも知れない。

 気象情報を収集する上で大切なことは、自分の係留地がどのような風に弱いかを予め把握できていることだ。それ如何によって対応も随分と変わるだろう。


 秋台風の注意

 台風の状況下では、風や波の向きが非常に変わりやすい。

 台風は時計と反対方向に周りながら進んでいく。従って、接近、再接近、通過というその過程で常に風向が変わっていく。今、吹いている風が自分のボートの係留地にとって心配の無い風であったとしても、数時間後には違う方向から風が吹くものであるということを認識したうえで予測をしなければならない。特に台風の目に近ければ近いほど風向は変わりやすいということも覚えておいて頂きたい。

 船にとって台風は、「右側は可航半円」、「左側は危険半円」といわれており、台風の進行方向に対して右側は航海できるが左側は極めて危険であるという意味。その理由は2つあり、一つは台風の右半円は、台風を押し流す風が台風自身が持つ風と加わりより風力を増す状況になっていること。そしてもう一つは、中心に流されるような風を受けるようになるので暴風雨圏内にいる時間がより長くなってしまうことだ。  台風の状況下で航行するような無謀な方がいるとは思えないが、例えば外航船などは洋上を航海するので台風に遭遇することなど珍しいことではなく、そのようなときには基本的な航海方法があるので雑学程度に話してみる。

 台風圏内から脱出する方法として2つの法則がある。それは「RRRの法則」と「LRLの法則」だ。

 「RRRの法則」とは、台風の右半円に入ってしまったときには風を船の右舷船首に受けて避航せよ。この半円内では風は右に転じるという意味だ。

 「LRLの法則」とは、台風の左半円に入ってしまったときには風を船の右舷船尾に受けて避航せよ。この半円内では風は左に転じるという意味だ。

 これらの手段により、より速く台風圏内から脱出することができる。最も3万トンを超える大型船のうちある程度速力のある船ならば小さい台風だとお構いなしに台風を突き抜けて航海する。小さな台風程度の波や風ならば航海に大きな支障はない。船もそれなりに大きくなればかなり安全な乗り物ではないだろうか。

 ただし、機関が正常に稼働しているというのが大前提である。機関が停止したら立ちどころに危険な状態となる。船の推進力が無くなると風波の影響を横から受け、復原力が著しく低下するからだ。これは小型ボートでも同じである。


 その他の注意

 桟橋や岸壁との接触を極力軽減させるために沖に向かってアンカーを打つように心がけたい。できることならば2個のアンカーを打ち、船の前と後ろをそれぞれアンカーと繋ぎ、アンカーロープを十分に張り、桟橋から離すぐらいが丁度よい。これによりボートと桟橋が触れる圧力が軽減されより安全な状態となる。

 全般的な注意点としては個々に加わる力を分散させる配慮を常に心がけたい。いくら丈夫なロープで繋いでみても、繋いである箇所が破損すれば全く意味が無くなる。それよりも力の配分を考え、ボート上ならばビットやボラードの全てを使うぐらいの心持ちで、加えてロープを繋ぐことができるリングなどがあればそれも有効に使う。

 また、陸上側においても既存の設備を過剰に信じてはいけない。ボート上と同じようにビットやボラードに代わる有効なものがあればそれを使い、ロープに加わる力を分散させるべきである。

 固有の目的に拘束されていてはダメだ。

 ビットやボラードはロープを繋ぐものだが、それ以外の場所に繋いではいけないと誰も言ってはしない。同様にビットやボラードを他の目的使ったって構わない。メーカーのマニュアルは単なるアドバイス程度のものと心得た方が無難だ。自分のボートならば自分で使途や用法を考えるべきだ。それはボート自体やネジ一つに至るまで全てのものをだ。

 そもそもアメリカを震源に、ユーザーがメーカーに対して過剰に甘えすぎている。  数年前にアメリカである方が飼っていた猫を洗ってあげ、乾かすために電子レンジに入れてスイッチを入れた。すると猫は焼け死んだという。電子レンジに「これは猫を乾かすものでは無い」と書かれていなかったと裁判で主張した。結果、メーカー責任が問われ、メーカーは損害賠償金を支払ったという。

 もう馬鹿らしくて聞くに耐えない。単なるゴロツキだ。強請たかりならもう少しマシな方法でやって欲しい。

 海の上では全ての責任は船長にある。還った訴えてやると叫びながら水中深くに沈んでいったらよろしい。

 ボートは本当に脳細胞を柔らかくする。
 信じられないくらい柔軟な精神を身につけることができる。
 海の上で、あるものはボートに積まれているものだけ。
 これを縦横に駆使する。
 岸に着桟するまでに手に入るものといえば水と空気だけだ。
 それを前提に出航する。
 全ては船長の判断だ。
 様々な物品をマニュアル通りに使っていてはダメだ。
 例えば柔軟な船長ならばロープを船を繋ぐためだけに使いはしない。
 数百通りの使途をオプションとして持っている。
 あるときはロープが布団になる。
 またあるときはロープが舵の代用品になる。
 それを馬鹿らしいと考える人は文明に護られた(甘やかされた)陸の人間だけだ。
 本誌を読んでいる読者の方々ならば絶対に理解できるはずだ。

 私が本誌を通じて読者の方々に伝えたいのは、世に存在するあらゆる物を固有の目的に拘束されずに使途は自分で決めるという柔軟な姿勢身につけて頂きたいということだけ。

 ボートの上で水平線を眺めながら考えて頂ければ容易に理解して頂けると思う。

 板子一枚下は地獄............

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