星座と神話 冬

1998年2月号 海の法規と知識 第42回
「星座と神話 冬」より抜粋

中山隆一郎 著

 

 海で四季の変化を感じるのは体感温度だけだ、などと寂しいことはいわないでほしい。

 確かに陸は周囲の変化が激しく、体感温度以外で四季を感じるものが多い。

 街を歩けば、クリスマスのデコレーション、ショーウィンドウにはコートや毛皮、スキーを背負った学生達が長距離バスを待つ、確かに冬の訪れを感じさせる。しかし、悲しいかな四季の変化は人間の手によって作られたものが非常に多いと私は思う。付け加えるならば、情報というものが現実よりも先行している側面も見逃せない。家から外に出なくたって冬を感じる事ができる。

 私は毎日冬を感じている。
 作られたものなんかではない。
 ただ夜空を見上げているだけだ。
 星座の並びが毎週、微妙に変わっていく。
 より綺麗な星が見たい。
 陸は人間(光)が多くてだめだ。
 もっと暗いところがいい。
 海へ行こう。
 満天の星空には無限の神秘さがある。
 星空の下で様々なことを考える。
 自分にこんな想像力があったなんて知らなかった。
 素晴らしく、そして貴重な時間が過ぎていく.............

   *

 身近に素晴らしい世界があることを忘れてほしくない。

 本誌読者の諸兄は海という素晴らしいフィールドをもっていることを忘れてほしくない。

 光の速さで100万年の距離。

 海ではそういったスケールの大きな話しをしようではありませんか。

 多少の星座の知識があれば、夜空はたちどころにプラネタリウムに変わる。

 もしだれかに何で星座に詳しいのかと訪ねられたらこう答えて頂きたい、「海が好きだから」と。

   星座の解説は今回で2回目になります。継続的に星座の解説を続けるつもりはありませんが、残る春と夏の星座の解説は、その季節になったらまた記述したいと思います。

 今回は「冬の星座」です。


 冬の星座の解説で、ようやく船にまつわる星座の神話を話すことができる。

 おおいぬ座の南方にとも座、羅針盤座、竜骨座、帆座と、それぞれ船を象徴する名の4つの星座がある。これらはかなり南方に位置するので日本の本土から見るのはいささか難しい。伊豆諸島や沖縄あたりでなんとか見えるかなといったところだ。竜骨座のカノプスという星は、伊豆諸島あたりでも見えるらしい。(カノプスは恒星の中でもシリウスの次に明るい星である)

 これらの船を象徴する4つの星座たちを古くは「アルゴ座」という名前で一つの星座であった。そして、その近くでは「鳩座」が輝いている。

 大きな船と鳩という関係は、それぞれ異なる伝説がある。

 アルゴ船の神話とヘブライの伝説(旧約聖書)の2つを記述しよう。


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 アルゴ船の神話

 昔、テッサリヤの王子にヤーソンという方がおられた。ヤーソン王子はコルキスという国に金の羊の皮があることを知り、それを取りにいくためにアルゴという船大工に50人ぐらい乗れる船を作るよう命じた。

 アルゴは王子の命令に依り、50人も乗れる大きな船を造り、そしてこの船は「アルゴ船」と呼ばれるようになった。

 この大きな船を操るために50人の勇士を集めた。その中には双子座の兄弟であるポルックスとカストル、また怪力無双で有名なヘルクレスもいたそうである。この勇ましい50人の勇士と共に、アルゴは自ら船長となりコルキスを目指し出航した。

 アルゴ船は目的地であるコルキスまでの航海で度重なる困難に遭遇した。特に黒海の「2つ岩」では舵を破壊してしまったのである。

 黒海の入り口にあるシンプレガデースという狭い海峡には不思議な2つの岩があった。

 この2つの岩の間を通ろうとすると、2つの岩が動きだして挟まれてしまうという恐ろしくかつ不思議な岩である。ここに近づいては危険なのだが、アルゴ船はこの海峡を通らなければ向こうの海には出られない。そう、コルキスに行くことができないのだ。そこでヤーソン王子は考えた。何かをあの岩の間に通して岩に挟ませ、岩がまた元に戻ったすきに通ればよいのだ。

 そこでヤーソン王子は一羽の鳩を放してその2つの岩の間を通させた。案の定2つの岩はもの凄い勢いで動きだし、鳩は挟み潰されてしまった。間もなく、岩はそれぞれ元の場所に動き出したその時、アルゴ船はすばやくその間を通りぬけようとしたが、岩は再び閉じてきて、アルゴ船の舵がもぎ取られてしまった。しかし、航海ができなるほどの損傷ではなかったので、アルゴ船はどうにかコルキスにたどり着くことができたのである。

 コルキスにたどりついたアルゴ船は早速、「金の羊の皮」を取りに向かったが、その「金の羊の皮」は森の中で木にぶら下がっていた。そして、その前には口から火を吹くという恐ろしい竜がいた。

 ヤーソン王子は魔法使いのメデヤに頼み、そこで番をしている竜を眠らせた。

 竜が眠っている間にヤーソン王子は「金の羊の皮」を手に入れ、めでたく国に持ち帰ることができた。

 ヤーソン王子はこのアルゴ船を記念として神に捧げた。それが今日まで星座として南の空で輝いているのである。そして、この「アルゴ座」の横には「鳩座」が置かれ、末永く輝きを放っているのだ。


 ヘブライの伝説(ノアの洪水)

 ヘブライの伝説である旧約聖書の中にある「ノアの洪水」の話しは大変有名である。

 ノアという者は日頃から大変行いがよく、それはもう神ですら信用していた人物だ。

 あるとき神様はノアの前に現れ神はノアにこう告げた。「どうも世の中の人間は悪さが過ぎる。まったく神に従おうとしない。もう人間は皆殺しにしてしまおう。しかしノアよ、おまえだけは特別に助けてあげるから言うことを良く聞きなさい。これから40日40夜雨をこの地上に降らせるから、地上は全て海になってしまうであろう。よって、おまえはおまえの一族と、おまえの家畜のひとつがいずつ入れるような船を造って難から逃れなさい。」と命じた。

 ノアは神様の命に従い大きな船を造った。やがて神様が告げた通り大雨が降り出し、人々はみんな海にのまれて死んでいってしまったのである。

 やがて雨もおさまり、危うく難を逃れたノアは海を彷徨っている。そこでノアは一羽の鳩を大空高く放したところ、しばらくするとその鳩は若草の芽を加えて戻ってきた。そこでノアは陸地が現れだしたことを知り、鳩の帰ってきた方向へ船を進めると陸地を見つけ、ようやく上陸できたという。

 ノアはそこに祭壇を設けて神様に感謝の祈りを捧げたというこである。

 それでその大きな船と鳩が並んで星座になったとも云われているのだ。


 神話や伝説はけしからん(ところがある)

 まあ、こんな伝説や神話が代々語り継がれていると述べてはみたが、どうしても腑に落ちない、けしからん部分もある。

 アルゴ船の神話では、ヤーソン王子は岩が閉じたときに「自ら」が挟まれないように、その手段として鳩を放った。結果、鳩はその命を無くしてしまったのだ。

 また、ノアの洪水では人間が神の言うことに従わない、人間は悪さばかりするという理由だけで、人々を皆殺しにしてしまう。それが神のすることなのだろうか。

 その他、仏教にしても、天国や地獄が存在するなどと云っている。良き行いをすれば天国に行ける、その逆ならば地獄に行くらしい。天国に生きたければ日頃から良き行いをせよと一見美しく聞こえるが、ならば自分が生を絶った直後、天国と地獄の狭間に立ったときにどう思うだろうか。天国への道が開かれていたとしても、もし最愛の者が地獄にいたとしたならば、それを放って本当に天国へ行けるのか、次から次へと地獄に投げ込まれる者たちを見ながらそれをあざ笑うようにして天国へ行けるのか。それでも平気な顔をして天国へ行けるような薄情者を天国が受け入れるのならば、それは真の天国ではない。地獄に投げ込まれる者たちに手を差しのべる者こそ、真の天国に行ける者ではないだろうか。

 生物が授かった権利は皆平等だ。天国と地獄、悪者を作り上げることによって天国を美化してはいけない。

 伝説、神話、説教。あらゆるものを全て受け入れることができる人間的なキャパシティも必要だが、過剰に受け入れず、それがたとえ神であっても漠然と流されずに、間違っていることは間違っていると、思える勇気が必要だと私は思う。これは自分との戦いだ。

 例えば、お経の一つとってみても、「私はこの部分は間違っているから、このように読経したいと思う。皆はどう思うか。」といえるぐらいの和尚さんが一人ぐらいいてもいいのではないかと私は思っているくらいだ。

 (この一説は、神や仏に類する部分を、あなたの嫌いな政治家や権力者の名前に置き換えて読んで下さっても結構です)


 冬の星座(冬の大三角形)

 夏や春にも3つの星を結んでできる大三角形があるが、冬の大三角形はほぼ26度の正三角形で大変明るい3つの星により形づくられている。

 この大三角形の星は、オリオン座の「ベテルギウス」とおおいぬ座の「シリウス」、そしてこいぬ座の「プロキオン」である。

 これらを含め、合計8個の1等星が夜空で輝く。四季を通してこれだけ豪華な星たちが一堂に現れる冬は、夜空を見上げるのがたいへん楽しみな季節である。特に「シリウス」は恒星の中でも最も明るく輝く星で、その青白い輝きは見事なまでに美しい。

 シリウスの明るい輝きは、地球から約9光年(光の速さで9年かかる距離)という大変近い距離にあるためで、シリウスが宇宙の中で飛び抜けて明るいというものではないのだ。(ただし、温度は非常に高く、約10000度の高熱を発している。太陽は約6000度)

 宇宙の中で飛び抜けて明るいというのならば、むしろ赤く輝くベテルギウス(オリオン座)のほうである。

 星が赤かったり青白かったりするのは、殆どが温度の違いによるもので、一般に赤い星は温度が低く、青白い星は温度が高いのである。そうなると赤く輝くベテルギウスは温度が低い星ということなのだが、にもかかわらずあれほどまでに明るく輝いている。このことからもベテルギウスがいかに大きな星かが解るだろう。

 ベテルギウスは表面温度が約3000度であり、ちょうど太陽の半分くらいの温度である。しかし、その大きさは、太陽の約600倍というとてつもなく大きな星なのだ。

 このような星を赤色巨星と呼んでいる。


 オリオン座

 冬の星座の代表格といえばオリオン座をおいて他にはない。眠らない街、東京ですら容易に見ることができる。それもそのはず、星の巨匠とでもいうべきほどの明るく立派な星たちで形づくられているのがオリオン座だ。

 オリオンという名称は、昔の力の強い勇士(猟師)の名称であり、先に述べたベテルギウスは巨人の肩、リーゲルとは足とかひざを意味する。実に勇ましい星座である。


 おうし座

 猟師オリオンに飛びつかんばかりに見えるこの「おうし」は、大神ゼウスが古代フェニキア王の娘であるエウローパ(ヨーロッパの地名のもと)をさらったときに変身した真っ白な「おうし」の姿である。

 この「おうし」のちょうど眼の位置で輝く1等星がアルデバランである。このアルデバランとヒヤデス星団が重なりローマ字の「V」の字のかたちに見える。

 まだ私が実習船の生徒だった頃、遠洋実習で天測計算(星の位置により船が地球上のどこにいるかを測定する航海術)実習の際に、教官からアルデバランを容易に見つける方法をこのように教わった。

 「アルデバランはVの字なんだ。あるでヴィあらん。」

 くだらなさのあまり、教官の頭を「はりせん」で叩いてやろうかと思ったが、あまりのくだらなさに、以来このアルデバラン(&ヒヤデス星団)のVの字は、夜空を見上げると最初に目に飛び込むようになった。

 その他に、「しっかり仰ごう南の空」というのもあった。

 南方に下った時の恒星の配置で、「シリウス、カノプス、アカーナー、フォマルハウト」、つまり「シっカりアフォごう南の空」と解する。この順番に南の空では星が輝いている。

 何ごとにおいても最初の第一歩なんて所詮この程度だ。こんなくだらないことを手がかりに、いずれ地球のどこにいても星座が手にとるように解っていくものだ。

 もしかすると、船乗りや本誌読者の諸兄ならば宇宙で迷子になっても簡単に地球を見つけることができるのではないだろうか。

 いや〜ラッキーである。???

 と、話しは逸れてしまったが、あるでヴィあらん、失礼、アルデバランのVの字の北西に目を移すと「プレアデス星団」がある。アルデバランのVの字「ヒヤデス星団」よりも明るく、ひときわ目を引く星団だ。

 日本では古くからこのプレアデス星団を「すばる」と呼んでいる。そう、あの歌に登場する「すばる」のことだ。

 目の悪い私としては裸眼だとこのすばる(プレアデス星団)は一つの点にしか見えない。眼鏡をかけてようやく星が集まっていることが解る。文字でいうと「V 。」という感じに見える。「。」の部分がすばるだ。

 このすばるは非常に温度が高く、エネルギーの消費も膨大のため短命なのだ。

 せいぜい1億年で命尽きてしまう星である。

 「あ〜あ砕け散るさだめの星たちよ〜」という歌詞の一部はこれを意味しているのだろうか?

 もし、谷村新二さんが本誌を読んでおられたら是非とも教えて下さい。

 (本誌は読んでいるけど海の法規と知識は飛ばしてる?!!)

 ところで、「すばる」とは大和言葉では「しばる」を意味する。

 う〜ん、ややこしくなってきたのでもうやめよう。

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