ボートことはじめ

1998年2月号 海の法規と知識 第44回
「ボートことはじめ」より抜粋

中山隆一郎 著

 

 私はこの誌面で、海の法規と知識というタイトルのせいか、どうしても読者の対象をボートユーザー、つまり船長を相手に振る舞ってしまう。

 逆にボートに無縁の方やこれからボートを楽しもうとしている方々にとっては、訳の判らない解説だとも思っている。

 そこで今回は、まだ免許を取得していない方々を対象に、海(船長)のさわりについて解説してみたいと思う。


 海の上の法規

 「青信号なら渡ってもいい」、「赤信号なら止まれ」のように陸上の交通ルールは生活に密接しているの関係上、通常の生活を営んでいる方ならば当然、理解しているはずだ。

 陸上の交通ルールに似たようなものが海上にもある。

 ボートならば好き勝手にどこでも走っていいのではない。

 海の法規の基本的な考え方は、世界共通の海上衝突予防法という法規があり、その他に特定の海域ごとに別の法規が存在する。

 海上衝突予防法とは、その字の通り、ボートとボートとが衝突するのを予防するための法規であり、相手があってはじめて成り立つ法規なのだ。

 簡単にこの法規のさわりだけ解説してみよう。

 自分を中心に考え、正面からこちらにボートが向かってきた場合、これは相手も自分もお互いに避けなければならない。避けるときは右側にボートの進路を変える。お互いが右側に進路を避ければボート同士が衝突することは無い。

 次に、自分から見て正面より右側に見える船は衝突の可能性があればこちらが進路を右に変えることにより避けなければならない。逆に相手のボート(自分を左側に見ている)は進路や速力を変えずにそのまま進まなければならない。

 このように様々な状況によって、誰がどのように相手を避けるかなどを定めたものが、この海上衝突予防法なのだ。

 この他に、特定の港、海域ごとや航路(海の通行帯)ごとに、海上交通安全法、港則法、地方条例などが定められており、これを守らずに好き勝手にボートで走っていると、当然のことながら法令により罰せられることになる。


 ボートの保管場所

 これは車と同じでボートも確たる保管場所が必要である。勝手にどこでも係留(ボートを陸に繋ぐこと)していいわけではない。通常はマリーナなどに係留するものだが、マリーナ不足やお金が勿体ないなどの理由で無許可で港湾や河川などに係留しておられる方が後を絶たない。

 このいわゆる違法係留については、マリーナの恐ろしいほど高価な係留費や厳し過ぎる港湾法規のことなど考えると、違法係留している方々を私は個人的に責めきれないというのが本音だ。

 そこで最近着目されているのがトレーラブルボートといって、台車にボートを乗せて、乗用車で好きなところに運んで遊び、終わったら持ち帰るというマリンライフスタイルだ。このような遊び方ならば係留問題という悪夢から解き放たれるのだが、実際にはボートを水に浮かべたり引き上げたりする場所が絶対的に不足しているなど、まだまだ解決しなければならない問題が多いのが現実だ。


 海ではどうやって目的地につくの?

 ボートの操縦では、以外と簡単そうで難しいのが真っ直ぐ走ることだ。

 車ならば道路に沿って走るだけのことだから真っ直ぐ走れて当然だが、海の上では目標物がはっきりしないので、かなり感に頼っているのが現実だと思う。しかし、霧が出たり夜間などは、目標物が殆ど判らなくなることがある。そんなときにはコンパスを見ながら走るのだ。ボートに取り付けてあるコンパスを見ながら、何度の方向に進めばよいかを海図などを見ながら判断する。このあたりが陸上と決定的に違うところだ。

 また、自分がこの広い海のどこにいるかを判断するには様々な方法がある。

 車でお馴染みのGPS装置で自分のいる場所を判断する方法。

 レーダーといってテレビ画面のようなモニターに周囲の地形が表示される装置があり、これにより自分のいる場所を判断する方法。

 その他、最近の小型ボートでは殆ど利用されていないが、ロラン、デッカ、オメガなどという装置によって位置を求める方法もある。

 また、特殊な例では、太陽や星の方位と水平線からの角度を求め、計算により自分がどこにいるかを求める天測航法というものもある。今や、GPS当然の時代だが、わずか20〜30年前までは、この天測航法というものが航海術の中心的存在であったのだ。


 ボートで釣りをするときの注意は?

 釣りが好きでボートを所有する方は非常に多い。最近ではとくに多い。

 ボートで釣りをするときは他の船舶の航行の妨げにならないように注意することが最も重要だ。特に運河や河川のようなところでは、航行できる幅が狭いので十分な注意が必要である。もし、それが定められた航路であった場合には、厳しく罰せられることだってあるし、それが起因して災害が発生したらそれこそ大変、場合によっては刑法の往来妨害に抵触することもある。また、もれなく民事責任も問われるだろう。  まあ、責任はともかく、そもそも危ない。

 釣りをするときは他の船舶の航行の妨げにならないようなところで釣りをし、あまり釣りに夢中になり過ぎずに、頻繁に他の船舶の動きもよくみておかなければならない。

 その他、石油コンビナートなどの近くでは、接近してはいけない場所もある。また、そのような場所でタバコを吸うのはもってのほかである。


 海で捨てていいものはなに?

 海で捨てていいものなんてない。  ゴミは燃えるものも燃えないものも全て持ち帰ること。当然のことだけど実に守られていないような気がする。大切なことをつけ加えると、ボートからゴミが捨てられた場合、その責任は捨てた本人ではなく船長、つまりあなたにあるのだ。それが発覚すれば海上保安庁から出頭命令が出て、始末書、罰金などと軽く考えるととんでもないことになる。例えばスーパーの買い物袋一つ分のゴミでも確たる処罰が下されることを付け足しておこう。

 なお、ちょっと専門的(既ボートユーザー向け)なことになってしまうが、船舶のゴミ処理に関して法令が厳しくなったので解説しておこう。

 対象船舶は、最大搭載人員が15名以上の船舶と全長12メートル(約40フィート)以上の船舶である。

 最大搭載人員が15名以上の船舶は、「船舶発生廃棄物汚染防止規定」を船内に備え置かなければならない。釣り船や屋形船、パーティー船など該当する船は多いと思うのできちんと整備しておこう。

 次に、全長12メートル(約40フィート)以上の船舶は「船舶発生廃棄物の排出に関して遵守すべき事項」のプラカードを掲示しなければならない。該当するボートは結構多いと思うのでこれもきちんと整備しておこう。 (図) プラカードや船舶発生廃棄物汚染防止規定はサンワマリン株式会社環境事業部(03-5228-1792)にて販売されているので、そこで購入するなり、自分で作るなりして頂きたい。


 素人が操縦してボートは沈みませんか?

 はじめての方は判断を誤り易いが、それによって即沈没するような例は少ない。むしろ初心の頃のほうが何事にも慎重であり事故も少ないのではないかと思える。ただし、肝心なことは、何か不測の事態がおきたときの対処が、馴れている方と初心者の方とではかなり違うと思う。

 本誌を通じて何度か申し上げているが、ボートは転覆することによって沈むのではなく、転覆して水が船内に浸水することによって沈むのだ。力学的にそうなのだ。

 ただの理屈だと思えるだろうが、必ず覚えておいて欲しい。そして絶対に忘れないでいて欲しい。

 これを常に心得ていれば、万一の際に対処が随分と異なるはずだ。そして尊い命を救えるかも知れない。

 繰り返し申し上げるが、ボートは転覆することによって沈むのではなく、転覆して水が船内に浸水することによって沈むのだ。

 そう、水の浸水さえなければボートは横になろうが逆さになろうが浮いている。

 この言葉はまだボートや海のことを知らない段階では難しい言葉だろうが、いずれこの言葉を通じて様々なことが見えてくるだろう。どんな揺れ方が危険なのか、どのような波が危険なのかなど、本当に様々なことが見えてくるはずだ。


 船長の心構え

 度重なる勉強をし、見事試験に合格し、ボートを購入し、晴れてボートの所有者になる。その時点からあなたは実質的にも法的にも船長である。それは誇りとともに責任を持つ立場だ。

 その先には楽しいことが沢山あり、これまでに得たことのない感動を何度も味わうだろう。

 はじめは確かに初心者だが、それもつかの間。すぐに今度は先輩の立場になる。

 船は一つの国家だ。

 船の中の出来事は船の中で解決しなければならない。それゆえに船長には警察権というものだってある。航海の安全の妨げる者と判断したら、その者を確たる場所に拘束できる権利もある。陸の上なら監禁罪に当たるが船の上では合法なのだ。

 船長を軽々しく考えてはいけない。

 今、あなたはその船長になろうとしている。船にも大小あるが、それが例えゴムボートだとしたって船長であることに変わりはない。

 これは法律だ。

 これまでこの海の法規と知識を読んで下さっている方々はよくご存じと思うが、いつもの私は今回の文章のように物腰が柔らかくない。船長を相手に振る舞うときはいつでも厳しい。同様に私も私自身に常に厳しくしている。勿論その厳しさも海の上に限ったことではあるが、少なくともこの誌面を開いているときは海の上にいるものだと思っている。

 これからも沢山の勉強をし、名船長と呼ばれる方になって下さい。

 あなたの船の上では、あなたが絶対の権力者なのです。

 あなたは誰に救いを求めることもできない。

 すべてはあなたの判断です。

 その判断如何によっては生死を彷徨うこともあるのです。

 船長に課せられた義務は、出港したら必ず帰ってくること

 これしかないんですよ、これしか。

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