罰則(港の中)

1998年4月号 海の法規と知識 第45回
「罰則(港の中)」

中山隆一郎 著

 

 法令は水ぎわに近づけば近づくほど犯しやすい。
 水ぎわに近いほど、法令は厳しくなると言ったほうがよいかもしれない。
 太平洋横断中など、廃棄物の不法投棄以外に、法令を犯せといったって「そりゃ無理だ」と言いたくなるほど関係法令が少ないものだ。せいぜい、何日かぶりに出会った船と衝突する恐れがあったときに海上衝突予防法の規則が適用されるくらいだ。ちなみに、海上衝突予防法には罰則規定はないのだ。その理由を解説すると大変長くなるので今回はやめておこう。

 さて、皆さんが日頃楽しまれているフィールドは少なくとも太平洋の真ん中ではないはず。しかも、日帰りの距離となると至って港内に近いでしょう。いや、港内のみで楽しまれている方が殆どでは?
 つまり、あらゆる海の中で最も法令の厳しいところで楽しまれているのです。

 皆さんが港や港の近くを航行する際に、関係する法令をまずは列記してみよう。

 ・海上衝突予防法
 ・海上交通安全法
 ・港則法
 ・地方条例
 ・海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律

 自動車は道路交通法を遵守さえしていれば、おおかた問題ないのだが、海の上はご覧のとおり様々な法令が関わってくる。厳密に申し上げるとこれら5点の他にも関係法令はまだある。
 まず、上記5点の法令はどんな目的の法令なのかをさらっと解説してみよう。


 海上衝突予防法

 これは船舶の衝突を避ける為の動作や灯火などが定められている基本的な法規だ。この法規は世界共通の法規なので、どこの国へ行っても内容は変わらない。もっとも、海は世界と結ばれているからその国ごとに灯火や衝突を避ける方法が変わってしまっては困るのだ。現に、海に行けば様々な国の船がたくさん往来している。これらの船は日本の海上衝突予防法に沿っているのではない。世界共通の海上衝突予防法に沿って航行している。

 まさに船の原則的な法規である。

 関係法令の上でも、この海上衝突予防法を一般法と呼び、それ以外の法規を特別法と呼ばれているのだ。


 海上交通安全法

 海上交通安全法は、この法令に定める下記の航路を航行するときに適用される法規だ。

 逆にいえば、この航路を通行しなければ関係の無い法規である。

 まあ表現が適当かどうか判らない(かなり不適当かも)が、私なりの感覚で申せば下記の航路はいうなれば高速道路みたいなもので、モーターボートを原付バイクで例えれば、高速道路に原付バイクで走るようなもの。法的に問題ないのだが、走るからには高速道路なりの規則を守らなければならない。止まっていたら危ないし、横断だってできない場所がある。勿論スピード制限だってある。
 他の一般海域と比較すると随分と拘束されるところだ。
 それがいやなら、航路を通らなければよい。ただ、それだけのことだ。
 何はともあれ、ご自身が日頃、この航路を通られているかどうかをよく覚えておこう。

 東京湾

  ・浦賀水道航路
  ・中ノ瀬航路

 伊勢湾

  ・伊良湖水道航路

 瀬戸内海

  ・明石海峡航路
  ・宇高西航路
  ・宇高東航路
  ・備讃瀬戸東航路
  ・備讃瀬戸北航路
  ・備讃瀬戸南航路
  ・水島航路
  ・来島海峡航路


 港則法

 こいつは重要だ。
 港あっての船だし、船あっての港だ。船と港は切っても切れない縁。
 そんな港だからこそ船が集まる。船が集まればその分、危険も増すわけだ。
 その危険を回避するためには、港特有の事情を考えた法規がどうしても必要になってくる。それがこの港則法というものだ。
 何しろ、狭い港の中で無数の船が出入りするのだ。かなり危険だ。特に大型船は水面下のふかさが深いので通れるところも限られる。そんな港の中で安易に錨を投げて釣りなどやっていてはダメだ。タバコに関しても罰則あるんですよ。
 そんな訳で、この港則法を中心に後でじっくり触れてみよう。


 地方条例

 こいつも重要な法規だ。
 これは、「港の中では一般的にこうあるべきだ」と規定される港則法を更に細分化した法規で、その地方によって条項が全く異なる。

 これはもっともな話しで、旅客船しか入らないような港とオイルコンビナートがひしめき合う工業地帯では危険度も随分と違う。また、港の形状や潮の流れの速さなどでも、すべての港がすべて同じ条件ではない。どうしてもその港、特有の「くせ」という奴があるからそれを港湾管理者(地方自治体が多い)が個々に定めている。その中には港利用料などの金銭的なものまで細部に渡って記されている。

 実は、この地方条例は非常に大切なことなので、個々に解説を行いたいところだが、いかんせんその数が多いので、全ての解説を終えるには何年もかかってしまう。  この地方条例に関しては、皆さんが日頃フィールドにしている場所をご自身で調べて頂き、ご自身なりのマニュアルを作って頂きたい。

 この地方条例を知る手段として、私の場合、海上保安庁水路部発行の「日本港湾港則集その1」と「日本港湾港則集その2」を読んでいる。概略のことは全てこれに網羅されているはずだ。

 更に細部を知るためには、その港湾を管轄している港湾管理者のところに行けば入手ができる。その港湾管理者を知るには、海運局か若しくは都道府県庁に「港湾管理者は誰ですか?」と訪ねれば教えてくれる。例えば横浜港ならば「横浜市です」と返答するはずだ。


 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律

 これは海は綺麗にしましょう。と爽やかなことを申し上げている規則だ。一方で、もし汚したら相応の覚悟をしとけ、と脅かす反面ももっている。(そもそも法規なんてそんなもんだが)

 具体的には捨てていいものと悪いものを定め、かつ、これを捨てるなら陸から何マイル以上離れなさい。というような細部まで記されているのだが、それを全て覚えるのは大変だ。

 この法規は覚える必要はない。

 海にはビルジを含め、ゴミを捨てなければいいのだ。

 実にシンプルで判りやすい。
 第一、ボートで出るゴミなんて大したものなんか無いじゃないですか。
 ゴミはきちんと持ち帰りましょう。
 いや、大変粗雑な解説で失礼しました。まるで園児に話しをしているみたいですね。
 しかし、園児にいっていることと同じようなことを大人にも言わなきゃいけないときが時々あるんですよ。判って下さい。


 罰 則

 さて、それでは皆さんが大変興味を持たれている(と思われる)罰則について列記しましょう。

 今回は港則法に関することです。

 その前に、法規を理解するには色々手段があると思うのですが、罰則から覚えるという方法は悪いことじゃないと私は思います。

 やってはいけないことというのは、罰則の重さに比例しています。
 罰則を心得ていれば、その法規はおおむね理解できているといっても過言ではないでしょう。

 ところで話しは逸れますが、先日私は日本一まずいのではなかろうかと思われるラーメン屋をみつけました。麺、スープ、チャーシュー、全てがまずかった。この時はじめて旨いラーメンとは何かを悟りました。それと同時に、いいものにたどり着く早道とは何かも悟りました。
 それは様々なことに言えると思います。
 350円でいい経験をしました。

 錨泊禁止

(港則法第13条 : 3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金)
 航路内で錨を投げて、釣りなどをしていると罰せられます。また、他のボートを曳航しているときに、その曳航しているボートを航路内で放すと罰せられます。
 ところで航路はどこなのだろうか?
 港によって違います。
 必要な情報の入手方法は、先程説明しましたね。
 もっとも、海図を見れば手っ取り早い。

 船長の義務

(港則法第25条 : 3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金)
 海難、つまり、衝突、落水、乗り上げ、機関故障などが起きたときに船長がしなければならないことってありますね。まさかケツをまくって逃げる人はいないでしょう。
 何か不測の事態が起きたとき、
 指をくわえて震えているやつ、
 ケツをまくって逃げるやつ、
 こういう奴らには制裁を与えようという規則なのだ。
 シーマンとしてあるまじき失態だ。

 ゴミ捨て禁止

(第24条第1項 : 3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金)
 ゴミを捨てたらダメ。そういうモラルの無い奴はお仕置きだ、という規則。

 強力な灯火の禁止

(第36条第2項 : 3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金)
 港の中でいたずらに強い光を放ってはいけない。まぶしくて他の船が安全に航行できない。そういう強力な灯火を出している者に対して港長(港で一番偉い人らしい)は、「光を消せ」、「光を減じろ」という命令を出す権利を持っている。それでも言うことを聞かなければお仕置きだ。
 ところでこの条文、陸上の人にも適用されるのです。
 条文は「何人(なんびと)も....」で始まるので、船上に限ったことではないのだ。
 まぁ、もっともですね。

 火気取扱注意

(第36条の2第2項 : 3万円以下の罰金)
 港は怖い。何しろ日本のエネルギー源はすべて港を介して消費される。オイルコンビナートだって99%が港にあるはずだ。
 そんな恐ろしい場所で、みだりにタバコを吸ったり、花火をやったり、危険のある火気を扱ってはいけない。
 具体的には、石油類の取り扱う場所の周囲、燃料を積み込み中の船舶の周囲、他にも何しろ危なそうなところでみだりに火気を使ってはならない。
 危険のある場所なんて、常識で判りますよね。
 なお、これも前述の「強力な灯火」と同様に「なんびとも...」である。

 入出港届

(第4条 : 1万円以下の罰金または科料)
 入出港の届出というものを港長という偉い人?に提出しなければならない。
 しかし、これは20トン以上で沿海区域以上の航行区域の船舶にのみ適用される。しかもそれは特定港と呼ばれる港(簡単に申せば大きな港、全部で73港)に出入りするときにのみ必要な手続きである。
 これの適用を受ける船舶はいわゆる小型ボートとは違うので、関係する人は十分に心得ているだろう。もし、関係するにも関わらず心得ていないのなら、私がお仕置きだ。

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