星座と神話 春

1999年5月号 海の法規と知識 第46回
「春の星座とギリシャ神話」より抜粋

中山隆一郎 著

 

  星座、特に星の配置は海では欠かすことのできない重要な航海術であり、古くはご存じコロンブスの時代にまでさかのぼる。

 天気のよい夜に、星座(星の配置)に精通している方ならば、羅針盤などなくても方角が手にとるように解るものだ。GPSなど高度な航海設備に頼っている現代だからこそ、海の基本というものを見つめ直すいい機会だと思う。
 それに、年中、海にいるのに星座やギリシャ神話の一つも知らないようでは私にいわせればそれは恥ずかしいことだ。

 勿論、それは海に限らず山でも街でも夜空が見渡せるところならば、是非とも星座を覚えて頂きたい。いつもと同じ景色でも違った世界にいるような気持ちになるはずだ。

 ある日、突然世界が変わってみえる。そう、中学に入学したとき、高校に入学したとき、大学に入学したとき、社会人になったとき、結婚したとき、子供が産まれたとき、それぞれ世界が違って見えた時のことを思い出して頂きたい。


 春の星座

 春の星座といえば、「春の大曲線」がまずは頭に浮かぶ。
 忘れてしまっただろうか?
 確か小学生の時に習ったはずだが。
 とはいえ、いかんせん昔に習ったことだから覚えてなくても仕方がない。(私の場合、「鶴亀算」など全く覚えてない。)
 初めから覚えるつもりで結構だ。
 今度は学校の課題ではない。海をより好きになるための術と思って頂きたい。


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 春の大曲線

 おおぐま座(北斗七星)のひしゃくの杖から曲線を大きく描くように夜空を見上げると、牛飼い座の「アルクツルス」、おとめ座「スピカ」の順に見ることができる。この大きなカーブが「春の大曲線」といわれるものだ。
 アルクツルス、スピカともに一等星で大変明るい星たちだ。


 おとめ座

 おとめ座の主星は「スピカ」と呼ばれる1等星だ。おとめの名にふさわしく、青白く、大変美しく輝く星であり、古く日本では「真珠星」と呼ばれていたことからもその美しさが伺えることだろう。

 冬の星座のときにも述べたが、星が赤かったり青白かったりするのは、殆どが温度の違いによるもので、一般に赤い星は温度が低く、青白い星は温度が高いのである。 青白く美しく輝くスピカは何と2万度という高熱を出しており、太陽が約6000度ということを比較すると、いかに高温であるかが解るだろう。実際、1等星の中でも最も高温なのだ。

 このスピカはギリシャ語では「麦の穂先」という意味であり、語源は英語のスパイクと同じで、きらきら光ったものを指している。

 また「おとめ」は、ギリシャ神話では収穫の女神のことであり、この女神が麦の穂を持ったように見たてている。


 牛飼い座

 春の大曲線の最後になる牛飼い座は、主星が「アルクツルス」と呼ばれる星だ。

 このアルクツルスもスピカと同じく1等星で大変大きく見えるのだが、温度が約5000度と低いのでオレンジっぽい色をしている。にもかかわらずスピカよりもアルクツルスの方が大きく見えるのは、スピカが地球からの距離250光年(光の早さで250年かかる距離)に対して、アルクツルスは36光年と近いことがその理由だ。

 これら2つの1等星は、色の美しさからスピカは女性的でアルクツルスは男性的であり、これらの2つの星は「春の夫婦星」と呼ばれている。


 しし座

 8月15日生まれの著者としては、しし座を忘れたくない。

 おおぐま座(北斗七星)の南側に大きなライオン(しし)が西側に向かって座っているように見立てており、確かにそのように見える。

 このライオンの頭から前足にかけて、英語の「?」マークを逆さにしたように見える部分があるが、これを日本では「といかけ星」と呼んでいたのだ。

といかけとは「?」マークにちなんで「問いかけ」と思われがちだが、これは雨どいの金 具の「といかけ」を意味しているのである。

 この「といかけ星」の一番下にあり、しし座の主星でもある「レグルス」はギリシャ語で小さな王様を意味する。

 そして、2等星ではあるが、ライオンのしっぽのところに位置する「デネボラ」という星がある。このデネボラは航海の天文航法(天測計算)の時にも使われる星で、ギリシャ語で「しっぽ」を意味する。


 ギリシャ神話・カリストとアルカス(おおぐま座とこぐま座)

 遠い昔、天の大王であるゼウス(ジュピター)という方がおられた。 天の大王ゼウスには、カリストという大変美しく清らかな侍女がおり、カリストは日夜、王様の身の回りのお世話をし、王様からは、それはもう大変かわいがられていた。

 ところが、王様があまりにもカリストをかわいがるものだから、王様の妻ヘーラは、それをねたみ、ヘーラの魔法によってカリストは熊の姿に変えられてしまったのである。

 熊に姿かたちをかえられたカリストは、もう王様の近くにはいられない。これ以上、王様のお世話をすることもできなくなったので、寂しさのあまり、カリストは次第に、ゆっくりと森の中に姿を消してしまい、それ以来、密やかに森の中で暮らすようになった。

 それから何年もの月日が経ち、あるときカリストの息子のアルカスが森の中に狩りにやってきた。

 立派になった我が子の姿を見たカリストは、あまりのうれしさに、ゆっくりとアルカスに近づいていったところ、アルカスは熊が近づいてくることに気がついた。

 とっさにアルカスは、弓を手にとり、熊を射止めようとした。アルカスにしてみればこの熊が自分の母親であることなど知る由もなかった。

 自分の母親を射止めようとする息子。その光景をオリンパスという山の上から始終を眺めていた大王ゼウスは大変慌てた。

 アルカスに母親殺しを止めさせなければならない。

 そこで、大王ゼウスは魔法を使い、アルカスもカリストと同じ熊にしてしまった。

 それ以来、熊になったカリストとアルカスは森の中で幸せに暮らすようになり、後に天に上げられ、おおぐま座とこぐま座になり、いつまでも天の北極の近くで仲良くまわり続けているのである。





 私はこのギリシャ神話を知ったときに大変感動した。確かに、おおぐま座とこぐま座は、いつも北の空で回っている。

 いつも小熊が大熊にジャレているように見える。その小熊を大熊が振り返りながら眺めているようだ。本当に仲が良さそう(幸せそう)で、この星座を見るとホッとした気持ちになる。

 都会でも暗い場所や深夜暗くなってからなら見ることができるので嬉しい限りだ。


 自分で作る(描く)神話

 以前にも書いたのだが、星座の並びなど、なかなかギリシャ神話で云われている通りに見えないことが多分にしてある。

 例えば春の星座では、おとめ座など、私から見れば「大雪が降った東京で、会社帰りのおやじが、滑って、すってんコロリン、ズテッ、痛っ!」という具合に見える。「おとめ」とは程遠い存在だ。(私のこと?)

 スピカが青白いのは、ころんだときに尻から火花が出たんじゃないだろうか。

 そして北斗七星(おおくま座)は、どうみても相模湾だ。

 メラクが横須賀、ミザールが茅ヶ崎、ベネトナッシュが熱海。北斗七星より相模七星のほうが実に解りやすい。

 正しいことは勿論知っていたほうがいい。正しい知識は絶対必要だ。

 しかし、そこから先は遊び心ももっていたい。

 ギリシャ神話は人間が作った物語だ。いうなれば究極のベストセラーとでもいおうか。

 それが後生に語り継がれている。

 神話はあなたが作ったらよろしい。

 別に活字にしなくたって、他人が認めなくたって構わない。自分の心にあればそれでいいんじゃないだろうか。

 心が豊かとはそういったことだと私は思う。

 また、世間一般でいうところの認識と自分の考えというものの双方を同時に持つことが、いわゆる「知識」と呼ばれるものではないだろうか。

 学生さんが、学校で勉強し、答案に正しく答えることは私の哲学では知識とはいわない。

 人間はコンピューターではない。

 YESとNOだけが正しい解答ではない。

 コンピュータ化が進む現代だからこそ、バリエーションのある解答、イマジネーションのある解答というものが絶対必要ではないだろうか。

 ときに我が家の子供たちは、一般レベル的に成績というものは中の下ぐらいだと思う。

 無理もない、親が成績なんかどうでもいいと言っているぐらいだから。実際、どうでもいいと心底思っている。恥ずかしいついでにいうとスポーツも得意じゃない。

 このままじゃ将来大学に入ることは難しいかも知れないが、親ばかの私は、この子たちは必ず幸せになるだろうと安心している。

 その根拠は、「ありがとう」、「かわいい」、「かわいそう」という3つの言葉をごく自然に口に出す回数が、他の子供たちと比較して飛躍的に多いからだ。

 これは私たち夫婦の教育成果だと思っている。

 勉強を教える程度の簡単なことでは無いとも思っている。

 話しにまとまりがなくなってしまったが、本誌の読者諸兄には海を存分に楽しんで頂きたい。それは、いいボートを持っていることとか、経験や知識が豊富にあることとかそんなことではなく、精神的に豊かになることだ。

 今回の題材でいえば、海で遊んでいて、夜になったら帰るのではなく、そこから始まるあなたの神話の世界があることも覚えておいて頂きたい。

 幾つになっても童心でいられる海が私は大好きだ。

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